私たちがGraciasを開業した当時、ヘナ専門店は非常に稀な存在でした。 あれから18年が経ち、現在では積極的に探せば辿り着けるほどにその数は増えたかと思います。メニューとしてヘナを導入されるサロンも増加傾向にあり、その背景には自然志向の広がりはもちろん、アンチエイジングへの関心の高まりも感じています。
華麗なる長時間労働時代から、不安を抱くまで
私たちがヘナを専門的に扱う動機は、スタッフの手荒れや健康不安を取り除くことからスタートしました。 当初、サロンは好業績を上げましたが、スタッフの待遇は決して良いとは言えない状態が続きました。長時間労働は常態化し、それを根性で乗り切る日々。当時はまだ若く、体力や精神力に自信がありましたので、力技で超えていくことができました。
しかし、オーナーである私自身が40代を迎える頃、漠然とした将来への不安がやってきました。 「一体、いつまでこの働き方を続けられるだろうか?」
そこで私は、過去の業績や予約数といったデータを整理し、一つの解決策を導き出すことにしたのです。
自己分析から見えた「事前予約」の価値
分析の結果、意外にも事前予約数が少ないことに気付きました。「当日予約」という不確定要素をなくせば、スケジュールは驚くほど組みやすくなるはずです。 また、年末に予約が重なりすぎて年明けにずれ込んでしまうお客様が多発した反省から、11月に来店されるお客様へ「事前予約」をご案内するようにしました。
これは、私たちにとっても、確実にお席を確保したいお客様にとっても、双方にメリットのある案内です。実際にお伝えしてみると、お客様は驚くほどスッと、その提案を受け入れてくださいました。
お客様の一声が、サロンの仕組みを変える
またある時、ヘナの放置時間中に、お客様から「今日は早く帰りたいから、今精算してほしい」と頼まれたことがありました。 断る理由もないので応じたのですが、その時、私はハッとしました。
確かに、お客様としてレジの前に立った時、心は既に「外(帰路)」に向いています。そのタイミングで何を提案されても、心には刺さりません。 それ以来、私たちはお客様の要望をお聞きした上で、「事前精算」を取り入れました。放置時間のゆとりがある時なら、会計ミスも防げますし、商品の説明もしっかりとできる。そして何より、事前予約をお勧めする「理由」を、丁寧にお伝えすることができるようになったのです。
これはマーケティングでも何でもありません。 ただの「お客様への親切」です。
偶然や出会いから受け取った「財産」
こうしたヒントは、すべてお客様の声の中にありました。 値上げをする際も、実はリピーターのお客様の一声から実現に至っています。一見するとネガティブに思える出来事も、「陰陽」の視点で捉え直すことで、解決の糸口が見えてきます。
その結果、今では基本的な労働環境を整えることができました。スタッフも長期休暇を利用して旅行を楽しんだり、友人とライブに行くなど、これまで諦めていた時間を実現しています。
スタッフも、私も、これから年齢を重ねていきます。 それに見合った環境を整備し、私は「75歳まで働ける環境」を目指しています。肉体面も心理面も含め、長く健やかに働ける場所を、自分自身や身近な人のために構築し続けたいと思っています。
標的ではなく、人間として向き合う
私たちはかつてマーケティングを学んだこともありますが、今では殆ど忘れてしまいました。「ターゲッティング」とは、言わばお客様を「標的」とすること。そんな不自然な世界観には、どうしても馴染めません。
今日来られたお客様に、末長く通ってもらえること。 それが美容師としての純粋な喜びであり、その気持ちを受け取っていただくための「形」が、私たちの言う「仕組み」に過ぎないのです。
この仕組みがすべてのサロンに当てはまるかは分かりません。 しかし、お客様と共に作り上げてきたこの経験に、私は誇りを持っています。
なぜ、私がこの記事を書いているか
実は、この春に岐阜で開催される4ヶ月間のセミナープログラム(安本和永 主催)に、講師として登壇する機会をいただいたからです。 この記事は、「セミナーで何を一番に伝えようか?」と考えていた時のメモを元に書きました。
「何を大切にしてきたのか」を知ってもらうことが、実践への一番のヒントになるのではないか。そう気付いたからです。
「ヘナリスト養成講座」では、単なる技術講習を超えて、私たちが大切にしているコンセプトを共有できる場にしたいと考えています。皆さんのサロンワークがより豊かになるような、面白いお話を仕込んで参ります。